2007/02/10

無限を求めて


昨年末スーパーエッシャー展を見に行き(06年12月22日blog参照)、とにかく思った事は、こんな作品を作るエッシャーとはどんな人物なのか? あのような、かくも不思議で複雑で繊細な版画を制作しようと思ったのはなぜなのか? おのずとエッシャーの人物像を知りたくなりました。そんな思いに応えてくれるぴったりの一冊「無限を求めて エッシャー自作を語る」を読みましたのでご紹介します。
この本は、エッシャー自身が自分自身の作品を語った、貴重な文章を集めたモノです。それは、版画仲間にあてた手紙であったり、幻となった1964年のアメリカでの講演旅行での原稿だったりと、かなり詳しく自身の言葉で作品についてを述べています。そこには、とても理路整然でかつ自然な彼の考えが言い表されています。そしてそれが作品に投影され、その方法論をひたすら探求していくと、あのような作品の数々が出来上がっていったというものでした。読んでいて、成る程と思わせます。だがしかし、彼は絶対的な孤独の作家でありました。彼の友人であったフェルミューレン氏が書いた、エッシャーに対する文章が最後の章に載っています。その中に出てくるエッシャーの言葉が象徴的です。
「わたしはここではひとりぼっちでさまよっている」と...。
“無限”の魅力に取り付かれるも、誰ひとり同じものを見えている人はいない。親しい家族でさえ、版画家としての自分を理解はしてくれるものの、その作品に対する事はなにひとつ見えていない。家族だけでなく、誰一人としてわかってくれる者がいない。自分だけが、気づいてしまった世界。そして版画という、おそろしく手間のかかる表現方法を用いたため、その制作にかかる孤独な時間も膨大なものになる。でも、やめられなかったのでしょう。制作をしている時が、楽しくて仕方なかったのだと思います。わかる。僕もわかります。そんなエッシャーに、作品を通して人間的な魅力を感じるのです。うーん、面白い人だ。
朝日選書。1,500円。

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