2006/10/04

手塚治虫 原画の秘密


今までに、漫画家、手塚治虫の生原稿を見る機会は何度かありました。初めて見たのは、手塚治虫が亡くなられた翌年の90年に、国立近代美術館で行われた“手塚治虫展”でした。美術館で漫画の展覧会が行われたのは初めてではなかったでしょうか。手塚治虫の業績を原稿を並べることで提示し、とくにストーリーテラーとしての一面を深く解説していた展示だったと思います。その時、漫画というものが手塚の死をきっかけに、やっと一文化として認められたのだと感じました。しかし、それらの事をよりも展示されてあった生原稿を見て驚いたのは、切り貼りで修正がしまくられていた生原稿でした。とくに、登場人物の顔の上には、書き直された顔が貼ってあったりして、とにかく何度も修正された後が見てとれたのです。その迫力たるや、印刷物からではわからない何かが感じられました。そう、手塚は作品が単行本にされる時や、原稿を入稿する直前など、幾度となく原稿をはさみでちょきちょきと切り刻み、時にはストーリーの構成さえも変えて、原稿を機会あるごとに修正していたのです。それがわかった時は、衝撃でした。手塚治虫程の多作な人は、描き終わってしまった原稿には、そんな事をする暇は無いだろうと思っていたからです。そこまで、自分の作品に責任を持ち、愛していたのだと思うと感動します。この本「手塚治虫 原画の秘密」は、そんな手塚氏の生原稿やボツ原稿から、その秘密を解こうというもの。読んでみたら、なかなか興味深い事実が見えてきて面白いです。ジャングル大帝に関しては、ラストシーンが足掛け25年かけて、変わり続けております。ブラックジャックの顔の下には、ひょうたんつぎがいたとは...。うーん、凄いなぁ。これはもう、一研究テーマとして、もっと深く追求してほしいところです。新潮社。1,400円。

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