2006/09/13

津軽


太宰治の「津軽」を読みました。この作品は、いわゆる旅行記というものでしょうか。太宰の故郷である津軽を、三週間に渡ってあちこちを訪れ、再検証するというもの。太宰自身が出版社の以来により書いたモノらしいが、これが滅法面白かったです。彼が最も調子が良かった時期に書かれているだけに、文章も、ものすごくのって書いているのがわかります。故郷と旧家出身の自分を嫌い、東京へ出てひどい生活をしていた彼が、なんとか長男である兄と、周りの人の助け舟によりなんとか和解したような(本人は兄に許されたとは思っていないが...)後だけに、家族に対してのぎこちなさは、読んでいて笑ってしまう。それにしても彼の酒量はものすごい。行く先々で、かつて旧家に仕えていた人々を尋ね歩く彼は、それらの人々に歓迎され、津軽流にもてはやされる。そんな彼は、とてもリラックスしているのだ。そして最後に、太宰にとって幼年時代の養母であった“たけ”との三十年振りの再会は、感動的でありました。書かれた時期が戦時中(昭和19年)であるため、ところどころで“国防に差し支えるのでこれ以上は書かないが...”と言っているところに時代を感じるが、それ以外を読む限りは、そんな事に関係なく、太宰はとても幸せそうなのです。その後の彼の生き様を考えると信じられない...。この作品には、太宰のやさしさとユーモアが、いっぱいに溢れていると思います。新潮文庫。400円。

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