走れメロス
ここのところ太宰治づいておりまして、「走れメロス」も読んでみました。表題作は教科書に取り上げられていておなじみですが、僕は何年ぶりこの作品を読んだのだろうか...。しかも真剣に。この作品は、著者の中期の短編作品を集めたもので、走れメロスはその中の一編にすぎません。こうしてあらためて読んでみて思うのは、一見この作品は美しい友情をテーマに描かれているが、その反面、人に対する信頼への失墜、嫉妬、不安を逆説的に描いているのではないでしょうか。それをあえてギリシャの昔話をモチーフにして、読者に対しうまくオブラートで包み、著者の人間に対する捉え方を訴えるという手法を用いてる気がしてなりません。この作品が教科書で使われている事を太宰がもし知ったなら、鼻で笑うでしょうね...。いや狙い通りと言うべきか。この表題作の他も傑作が多く、「駆込み訴え」という作品は、キリスト教のユダの独白形式で、ユダが裏切る時の状況の話なのですが、これが滅法面白かったです。これを熱心なキリスト教信者が読んだらどう思うのかなぁ。もう「ダ・ヴィンチ・コード」も眼じゃないぐらい、相当お怒りになるのではないでしょうか。でも人間とはこういう生き物ですよね。あと「富嶽百景」や「東京八景」、「帰去来」に「故郷」と自伝的作品が多く、太宰が改心した時期の話で、とても興味深かい話ばかり。太宰お得意の女性の告白形式の短編「女生徒」も面白かった。ゆれる少女の心を、せつせつと描いています。うーん、これはもうお勧めです。新潮文庫。400円。
ラベル: BOOK
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